レキオ島唄アッチャー

変容する琉球民謡、八重山から本島へ。「古見浦ぬぶなれーま節」

 「古見浦ぬぶなれーま節」
 「古見ぬ浦節」にかかわって興味深いのは同曲に登場する女性ブナレーマと同じ名前の女性を主人公にした「古見浦ヌブナレマユンタ」「古見浦ブナレマジラバ」など八重山の各地にあることである。
これは、古見のブナレーマが人頭税の貢布を納めるため舟で石垣島に出かけるという物語となっている。
 歌意を紹介する(囃子は略)。
 1、古見浦のブナレーマ女は ミユシク(古見浦の異称)の娘は
 2、初夏になったので 若夏がきたので
 3、自分の織り上げた上納布を取り持ち 十尋(ヒロ)の長さの布を抱きかかえて
 4、前の浜に駆け下り 皆の寄り合う浜に跳んで来て
 5、自分の舟を押し下ろし 艫高の舟を引き下ろし
 6、自分の織り上げた上納布を取り載せ 十尋の長さの布を抱き載せ
 7、石垣島に舟を走らせて行き 親島に舟を飛ばして行き
 8、どこが舟着き場か ミシャギゥ(美崎)の前が舟着き場だ
 9、どこが宿泊所か 蔵元の前が宿泊所だ
10、検査所に行って入り 点検所に入って行き
11、検査役人に検分してもらい 収納係りの役人に納めた
12、蔵元の戻りには 沖縄商店に入って行き
13、注ぎ口の湾曲した土瓶は祖母の土産に 木製の煙草入れは祖父への土産に
                         比屋根孝子
八重山民謡歌手の比屋根孝子さん。比屋根さんが歌うこの曲はまだ聞いていない
 この曲は、島と地域ごとに少しずつ表現が異なる。この歌意は、當山善堂著『精選八重山古典民謡集4』から紹介した。
織り上げた布を自分で舟に載せ石垣島に運び、宿をとり、役人の厳しい検査を受け、無事納めた帰りに、祖父母にお土産を買って帰る。こんなブナレーマの姿は、とてもたくましく、健気である。
 「古見ぬ浦節」で出てくるブナレーマと「古見ぬ浦ぬぶなれーま節」」のブナレーマは同じ女性だろうか、同名異人なのだろうか。同じ名前の女性が何人かいたとしても不思議ではない。時代が別なのかもしれない。
 竹富島の同曲は、上記の歌詞と似てはいるが、これに続けて歌う「引羽」(ヒクバ)の歌詞が、曲の後半部にあたり、少し異なる内容である。
1、布を引かしての帰りには 長さを引かしての帰りには
2、大和屋に走り 沖縄屋に走り行き
3、簪(カンザシ)も持って来た 押し差し(簪)も持って来た
4、筑補佐(チクブサ、役職名)家に走り行き 佐事補佐(サジブサ)家に走り行き
5、餅米も七升 粳(ウルチ)米も七升
6、二七つ 十四 二十八つ持って来た
7、簪は父のもの 押し差しは愛しい人のもの
8、餅米は異なもの 粳米は父のもの
9、古見村に走り行き 美与底(ミユスク、古見の異称)に帰りなさり
 こちらは、土産を買うのに「大和屋」にも行ったり、役人が登場する。土産をあげる相手も、父とともに愛しい人が出てくる。情景が目に浮かぶような曲である。
 當山氏は、この曲について「人頭税時代の女性に課された上納布にまつわる長編の叙事詩で、その表現の豊かさは圧倒的で傑作中の傑作と言っても過言ではない」(同書)と高く評価している。
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八重山上布(石垣市博物館)
 上納布を納めるための女性の苦労について、喜舎場永珣氏は次のように記している(『八重山民謡誌』)。
 「完納するまで婦女子はほとんど全部石垣の街で借家をして完納の祈りをし、役人に対してのお伽役を婦女子は秘密裏に強制せられて帰るという習慣であった。これは封建時代の秘史である…完納期間中の石垣の街は各離島や東部地方の婦女子で一杯であった」。
 検査と収納にあたる役人が、権威を背にして女性にお伽役も強制していたことを明らかにしている。
 波照間島の「古見浦ヌミヤラビアユ」は、少し歌詞の内容が異なる。
 <石表島の古見村に生まれた乙女は、朝起きると集合の合図板が打たれたので行くと、村番所の中で御用布の原料の白苧麻を紡ぐ命令だった。
 古見浦に生まれた乙女は、美人に生まれたのでお役人の賄女にご奉公していた。村のお役人の旅先の妻になっていた>
 あらましこんな内容の歌詞である。こちらは、納布のため出かける話ではないが、村番所に集められて役人の監視のもとに糸紡ぎや機を織らされる労苦と役人の現地妻にされた悲哀が歌い込められている。
 この曲は、歌詞の内容に異同はあっても、いずれも人頭税時代に生きた「ブナレーマ」をはじめ無数の女性たちを苦しめた現実を素材とした哀史というべき曲である。
 これは、本島でも歌われているわけではないが、「古見ぬ浦節」の付録として取り上げてみた。
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