レキオ島唄アッチャー

神の島・久高島の祭りと暮らし、イザイホー

  島の女性が神女になる「イザイホー」
  沖縄では姉妹が兄弟を守護するという「オナリ神」信仰が根強く残っている。
久高の女性たちが、久高の祭祀組織に入る儀式が、イザイホーである。はじめに、簡略にその模様を見ておきたい。
「イザイホーは、久高島で生まれた、丑年の30歳から寅年の41歳までの女が、祖先のシジ(セジー霊威)を受け、島の祭祀組織に入る儀式である。女たちは、1ヶ月前のお願立てを初めとし、7回のタキマーイ(嶽通い)をして、イザイホー第1日目の早朝、祖母の家に行く。祖母の高炉から自分の高炉へ灰を引き継ぐことで、祖母から孫娘へのシジ(霊威)の引き継ぎが行われる。 
              七ツ橋、七ツ屋、タマガエーヌ香炉引継ぎ
写真は「タマガエーヌ ウプティシジ香炉の引継ぎ(『久高島のイザイホー』から)

  次に来世のシジ神(祖霊神)と現世の祭祀組織の頂点であるノロと根人から、久高島のミコになることの認証を受け、はじめて、ナンチュと呼ばれる神人になるのである。祭りは、霜月15日、子刻、ユクネーガミアシビ(夕神遊び)から始まる。それによってシジ神の認証を受けたナンチュたちが、2日目に洗い髪で、神々たちに、その披露をするカシララリアシビ(かしら垂れ遊び)、3日目、ノロ、根人からナンチュの認証を受ける朱リィキィの儀式とイザイ花を髪に挿してのハーガミアシビ(井泉の神の遊び)、4日目、イザイホーに降臨したニライカナイの神々を送るアリクヤー。ナンチュが、男兄弟とミキを交わすアサンマーイ。そうして、無事、イザイホーの儀式が終了した祝いの舞い、グゥキマーイ(注・後家廻り)が、鮮やかな扇をかざして舞われ、1日間をおいて、シデガフーという感謝の宴で祭りは終わる。 
                  お願立て、祭場作り
          写真は「お願立て 久高殿」(『久高島のイザイホー』から)

  ナンチュになった女たちは、ふたたび畑に戻り、島の栄えを、一家の栄えを願う。作物が豊穣であるように、海がその幸をもたらすように。――そして、なによりもまず、海人であるわが夫、わが息子の無事を祈るのである」(比嘉康雄、谷川健一著『神々の島 沖縄・久高島のまつり』)

  最近見た映画「イザイホー」では、白装束の女性たちが「エーファイ、エーファイ」と叫びながら、ナナツ橋を行きつ戻りつ渡る姿が強く印象に残る。繰り返されるその光景は、女性たちがもう神女として異界に入りつつあるような雰囲気を醸し出している。
 
  「エーファイ」の掛け声は、どのような意味あいがあるのだろうか。
  「久高ノロの御主人で島のよき指導者である安泉松雄氏は、久高の方言で『畏多い』ことをエーミサンというので、これが訛ったのではないかと推測される」(『神の島の祭り イザイホー』、桜井満氏)
  「エーファイ」という掛け声は、イザイホーの祭儀に常になされるもので、悪神を除いて良神を呼び寄せる意味があるという(同書、高橋六二氏)。 

  イザイホーの流れとその意味
  イザイホーの儀式の流れはどのような意味あいがあるのだろうか。もう少し詳しく見てみたい。桜井満編『神の島の祭り イザイホー』(尾崎富義著「まつりの日々」)から紹介する。
  イザイホーの神事を流れに沿ってみていくとき、二つの大きな儀式から成り立っていることに気付く。そのひとつは、初めの二日間は巫女(注・神女)の資格を得るための物忌み、三日目は資格授与、四日目はニライの神を迎えての祝福と共食という流れである。つまり海の彼方ニライカナイの神を迎えてまつることを第一義とする神事だという指摘である。
  そして今ひとつはナンチュが兄弟のオナリ神になるまでの一連の儀式ではなかったかということである。
  まず第一日目ユクネーガイの中心は、いうまでもなく七つ橋渡りにある。
                      七ツ橋渡り、アシャギに入った後祭場、ハシララリアシビ
       写真は「七ツ橋渡り」(『久高島のイザイホー』から)
  <新参のナンチュは、神アシャギの入り口におかれたナナツ橋を渡り、アシャギの後方のアダンの森イザイ山に建てられたイザイヤーにこもり、イザイガー(注・井泉)で禊ぎをくり返す。不貞の女はナナツ橋から落ちて血をはくといわれるように、ナナツ橋は、汚れなき女性がこの俗世界から隔絶された聖地イザイ山にはいるための橋であった。そして、クバやカヤで葺かれたイザイヤーで厳重な物忌にこもり、神聖なイザイガーで禊ぎをくり返すことによって、神に斎きまつるミコとしての資格を得るのであった(この項、桜井満著「セジ高き島のまつり」)>
   橋を渡った彼岸は穢れなき聖地である。それゆえに不貞の者は橋から落ちて死ぬという説明が生れてくる。聖地の穢れるのを忌むのは、何もイザイホーに限ったことではない。しかし、イザイホーにおいてこのことは特に重要視される。
ナナツ橋渡りの本義は、喧伝されたような貞操試験にあるのではない。それは聖域に入る儀礼であり、兄弟のオナリ神たりうるかどうかの選定であったのではなかろうか。
 
  次の二日目は忌籠りである。いったんイザイヤーに籠ると、グキマーイ(後家廻り)までは家族と会うことも許されない。子の刻と寅の刻に神遊びをして、早朝にはイザイガーで潔斎をするというのも、巫女またはオナリ神として神を祀り、兄弟を守護する資格を得るための厳しい物忌みであったのだ。
 
  三日目のシュティキ遊びはいわば合否の判定である。
  <ミコになった印に、根人がナンチュの額と両ほほに朱印をつけ、ナンチュのイキ(兄弟)が差し出すシュジィと称する米の粉の団子でノロがナンチュの額と両ほほをおす。兄弟が登場するのは、姉妹オナリ神の信仰に由来する。この項、桜井満著>
  押印に使われる団子上のものをシュジィ(またはスジ)と呼ぶのは、霊力・守護霊を意味する。このシュジィを兄弟が持つのもそれだけの理由があったに違いない。
                   朱リィキ全景、根人の朱リィキ、花さしアシビ
           写真は「花さしアシビ」(『久高島のイザイホー』から)                          

   四日目のグキマーイ(注・ナンチュが各自の家に立ち寄り兄弟と対面する)は認定の報告である。ナンチュがハブイを被りアダカの葉を押すのは、無事に守護霊を得てオナリ神となり得たしるしであったのだ。このときもまだ兄弟がこのハブイとアダカを受け取り外間殿まで持って行く。イザイホーにおいて兄弟はきわめて重要な責務を課せられていることがわかる。
   それゆえにナンチュになるに際して、兄弟のいない場合は甥でもよいし、ときには知人でもよい。とにかく兄弟を定めなければならないという。
   なお、この日のアリクヤー(注・アリクヤーの綱引きともいう)もまたオナリ神としての守護霊を得るための祭儀とみなすことができるであろう。
   ともあれ、沖縄では姉妹が兄弟を守護するという信仰が根強く息づいている。今こうしてイザイホーの神事に、選定―物忌―判定―報告といった一連の祭儀の流れをみるとき、イザイホーには、オナリ神信仰に基づく重要な意義があったことに気付くのである。
                      東方遥拝後の四方拝、アリクヤーの綱、グゥキマーイ
      写真は「アリクヤーの綱」(『久高島のイザイホー』から)

 オナリ神信仰
  沖縄のオナリ神信仰について、ついでにもう少しふれておきたい。
  沖縄の古層文化に母系社会が久しく存続したせいか、王府の抑圧にも拘らず、辺地や離島には兄妹始祖の民間伝承が数多く残された。沖縄の諺に、「御神一つの近親類(ウチヤンテイチヌチキヤオンバダン)」とあるように、祖神すなわち原母から生まれた兄妹による最初の夫婦から広がって血縁共同体のマキョやサトが成立したというのであろう。
  沖縄の「おなり(姉妹)神」信仰はその論理にもとづく。それは王権祭祀における国王とそのおなり神の聞得大君(キコエオオキミ)、村落祭祀における根人と根神、家の祭りの「ゑけり」(兄弟)とおなりとの関係でも、その原理は貫かれていた。そしてそれが原初的な姿でもっとも色濃く残っているのが、久高島の年中祭祀であり、イザイホー祭りではないだろうか。
  湧上元雄著「イザイホー見聞録」(『沖縄久高島のイザイホー』)から紹介した。
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コメント

ご無沙汰いたしております。

今度、9日から12日まで沖縄へ行きます。
一度お会いして食事でもと思っています。
那覇には9日と11日の夜にいます。
出来れば9日の夜にお会いできることを
希望しています。

9日の宿泊は南西観光ホテルです。
よろしくお願いします。


2015-04-06 Mon 18:28 | URL | ピースオレンジ [ 編集 ]
> ピースオレンジさん。コメントありがとうございます。
>  9日、11日は残念ながら外せないイベントが入ってます。4月9日は語呂合わせで「フォークの日」。北谷町ライブハウスモッズでスペシャルライブがあり、行きます。フォークユニット「F&Y」や「しゃかり」「城間健市」さんなど出演します。午後8時スタート。前売り3500円、当日4000円です。
>  11日は毎月恒例のアルテ・ミュージック・ファクトリーがあり、音楽好きが演奏しまう場で、そちらにエントリーしています。首里の崎山にあるアルテ崎山1階のウォーバーAホールというところです。こちらは午後7時半スタートで見るのは無料です。
>  もしどちらかおいで下さればお会いできます。申し訳ないです。 
2015-04-06 Mon 23:58 | URL | レキオアキアキ [ 編集 ]

そうですか。
了解です。
また5月か6月にでも沖縄へ行く予定ですので、
その時でもお会いしましょう。

イベント頑張って下さい。



2015-04-07 Tue 18:26 | URL | ピースオレンジ [ 編集 ]
ピースオレンジさん。
 またの機会によろしくお願いします。沖縄楽しんでください。
2015-04-08 Wed 10:26 | URL | レキオアキアキ [ 編集 ]

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